Tourism passport web magazine

学校法人 大阪観光大学

〒590-0493
大阪府泉南郡熊取町
大久保南5-3-1

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大阪観光大の学生や教員が運営する WEBマガジン「passport」

Osaka University of Tourism’s
Web magazine”passport”

「passport(パスポート)」は、観光や外国語、国際ニュースなどをテーマに、 大阪観光大学がお届けするWEBマガジンです。
記事を書いているのは大阪観光大学の現役の教授や学生たち。 大学の情報はもちろん、観光業界や外国語に興味のある方にも楽しんでいただける記事を定期的に公開していきます。

不易流行 – 田尻漁港の朝市で思うこと –

先日、大阪湾の田尻漁港で毎週開催されている日曜朝市に行ってきた。今月実施予定の学生ガイドによるまち歩きで学生が企画したコースの下見としてである。
 恥ずかしいことに、JR日根野駅まで通勤していながら、関西国際空港にほど近いこの漁港で朝市が行われていることを全く知らなかった。今年で25周年とのことで、関西国際空港と同じである。空港開港に合わせて企画開催され、継続されているものと思われる。

筆者は、約50店舗ほどで規模は大きくないと聞いていたので、泉州ブランドのたこ(=泉だこ)やあなご等の新鮮な魚介類がならび、その場で調理された天ぷらやたこ飯などを食することができるのだろうと想像しながらホームページも見ずに向かったのだが、到着してびっくりした。
 会場入り口付近で最初に目に飛び込んできたのは、餅?お菓子?コロッケのお店や野菜果物のお店そして手作りパンのお店である。ようやく鮮魚のお店が見えたかと思うと、もうひとつの泉州ブランドである泉州タオルのお店や花屋さんもあったりと実に多様である。奥に進むと鮮魚が中心になってきた。期待通りの、その場で揚げる魚介の天ぷらやたこ飯のお店もあった。
 しかし、漁港の朝市っぽさが広がる空間を楽しみながら奥のテーブルスペースに到着すると、その前にはうどん?そばの麺類や唐揚げ?コロッケのお店やたこ焼き屋さんに韓国料理のお店も出現し、テーブルでは小さな子供連れのご家族やグループ等が様々な朝食を楽しんでいたのである。

現地の方々にヒアリングしたわけでは無く私の憶測なのだが、各店の配置からして、この朝市は、25年の歴史の中で新鮮?自然?手作りなどがキーワードとして広がり、鮮魚中心から多様なお店の出店につながっていったのではないだろうか。

ここで本稿タイトルの「不易流行」。日本俳句研究会のホームページでは以下のように説明されている。

不易流行とは俳聖?松尾芭蕉が「奥の細道」の旅の中で見出した蕉風俳諧の理念の一つで、芭蕉の俳論をまとめた書物『去来抄』では、「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」と書かれている。
噛み砕いていうと、「良い俳句が作りたかったら、まずは普遍的な俳句の基礎をちゃんと学ぼう。でも、時代の変化に沿った新しさも追い求めないと、陳腐でツマラナイ句しか作れなくなるので、気を付けよう」ということです。

また大辞林では、「俳諧の特質は新しみにあり、その新しみを求めて変化を重ねていく『流行』性こそ『不易』の本質であるということ」としている。この言葉を俳句から観光に置き換えてみると、梅川(2018, pp.60-61)は、「本質を保ちつつ新しいものを重ねるという点で観光にあてはまる言葉である」と述べている。筆者も心に留めている言葉である。
 20年程前に、サントリー不易流行研究所(2005年にサントリー次世代研究所へ名称変更、2008年活動終了)と仕事でご一緒する機会があり、その言葉の意味を始めて知り、観光にも通じることだと強く印象に残ったからだ。今も講義等において、不易流行の言葉に触れて観光への取り組みの観点を説明することがある。
 時代の変化に沿った全く新しいものを取り入れているというわけではないのだが、田尻漁港の朝市と不易流行の言葉が重なった。

朝市の愛好家でこだわりのある人は、朝市で縁日屋台のような加工品が売られていることに興ざめするかもしれない。邪道と思うかもしれない。しかしながら、田尻漁港の朝市に行って筆者が感じたことは、生産者も消費者も多様な広がりがあるからこそ、漁港が地域交流の拠点になっているのではないかということである。
 残念ながら外国人の方を見かけることが今回は無かったが、小さな町の漁港において地域魅力の本質を保ちつつ多彩な食材?食品等を販売することで、地元の年配者から子供までのあらゆる層および町外の来訪者も含めた交流が生まれている。生産者間の交流の輪も広がる。そして、ここで販売していたからこそ買っていく物もある。少なくとも大阪府田尻町にある漁港での日曜朝市は、何のために実施するのかという観点からすると、この変化でよいのだろう。
 漁港を後にするにあたり、無類の粒あん好きである筆者は、朝市訪問の総仕上げデザートとして冷たい潮風にあたりながら「あんこ餅」を頬張ったのである。

下見といいながら思いっきり楽しんでしまった。まもなく実施予定のまち歩きにおいて、参加いただく方々の反応も非常に楽しみである。そして、学生ガイド達もまた、まち歩き参加者と朝市出店者の双方が喜んでいる情景を想像しながら、まち歩きの実施を心待ちにしている。

■参考文献:
梅川 智也(2018)『観光計画論Ⅰ』 / 原書房

■参考ウェブサイト(いずれも最終閲覧2019.12.1):

日本俳句研究会ホームページ
https://jphaiku.jp/how/huekiryuukou.html

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